生理学は、医学部生が基礎医学に進んで最初にぶち当たる壁orzです。
解剖学はまだ、人の筋肉や骨を扱っていたので自分の体と照らし合わせてイメージしやすく覚えやすかったのですが、生理学は人の体をミクロに分解した仕組みについて学ぶので、抽象的でなんだかよくわからないという学生も多いと思います。
「Gタンパク質共役型受容体は、細胞膜表面に存在する受容体であり、細胞外からの神経伝達物質やホルモンを受容して、そのシグナルを内部に伝えるが、その際にGタンパク質という三量体蛋白質を介して、シグナル伝達を行う。」
「尿素回路においては、アンモニアは、ミトコンドリア内のカルバモイルリン酸シンターゼIを触媒として、2ATPの加水分解と共役してHCO3-と反応し、カルバモイルリン酸となる。そして、カルバモイルリン酸はオルニチンと縮合し、シトルリンに変化する。」
この二つは生理学の教科書に書いてあった説明ですが、初めて聞く単語が次から次へと出てきてもう目が回りそうです。
勉強嫌いの人や活字が嫌いな人であれば、アレルギー反応が出てもおかしくありません。
学生の中には、生理学のテストでは過去問がまるまる出ることにかけて、捨ててしまおうと心が折れてしまった方もいらっしゃるかもしれません。
残念ながら、ここで諦めても必ずそのツケは後からやってきます。基礎医学を学ぶのが二年生だとしたらその2年後、CBTと言われる国試のプレ試験で一から勉強し直さなければならなくなるのです。もっと悪いことに、生理学は三年生で臨床を学ぶ時の基礎となる部分ですので、この地盤が甘いとガタガタの小さな家、つまり低い成績しか取れなくなるのです。
しかし、心配しないでください。生理学の正しい勉強法を覚えれば一気に楽になります。生理学の覚え方にはコツがあるのです。
暗記の基本
まずは、暗記の基本からお伝えします。
暗記には自信があるという方は、この項目は飛ばして構いません。私のように、典型的な理系で論理的な問題を解くのは得意だけど、日本史や地理のような暗記科目は苦手だった方は是非読んでみてください。
ヒトは忘れる生き物
突然ですが、冒頭で書いたGタンパク質共役型受容体と尿素回路の説明について、見ないで言うことができるでしょうか。ほとんどの人が覚えていないと思います。(そもそも読み飛ばした人もいるかもしれません…)
しかし、今までの文章の中で思い出せるフレーズもあるはずです。特に、最初の行に赤文字で書いてあった「orz」は思い出せるのではないでしょうか。
一部は思い出すことができるが、大部分は忘れてしまったという方、それは当然の現象です。
忘れたことを悲観する必要はありません。なぜならヒトは忘れる生き物であるからです。
「エビングハウスの忘却曲線」はご存知でしょうか。
皆さんもどこかで一度は見たり聞いたりしたことがあるかもしれません。
ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが、被験者にアルファベットの羅列を複数覚えさせ、時間とともにどれだけ忘れるか実験したところ以下のような曲線を描くことがわかりました。
驚異の忘却速度です。たった数十分後には半分も忘れているのですから。
何故忘れてしまうのかというと、なんでもかんでも記憶すると脳の容量が圧迫されてしまうからです。街で見たおじさんのジーンズの穴の数や今日自分が足を掻いた回数などという些細で余計な情報まで覚えていたらきりがありません。脳は覚えることを篩にかけているのです。
繰り返せば忘れない
エビングハウスの実験には続きがあります。人は忘れる、とわかったところで何の役にも立たないので忘れない方法も研究したのです。その結果が以下の曲線です。
忘れない方法、それは復習をすることです。一回ではなく、二回三回と繰り返していくことでどんどん記憶が定着していきます。
記憶には、短期記憶と長期記憶があります。最初に覚えた時に記憶されるのが短期記憶。短期記憶は、一時的に記憶を保存するためのもので、すぐに消去されます。その中で、脳が大事だと判断したものは長期記憶に移され、いつまでも覚えていることができるのです。
つまり、脳に大事な情報だと判断させるには、繰り返し覚えることが重要なのです。
繰り返しには最適な期間がある
覚えるためには復習が大切だと書きましたが、復習には最適な期間があります。勉強した直後に復習をしても、その時はまだ記憶が鮮明な時間なので、わかりきった単調な刺激には脳は反応しないのです。
どのタイミングが最適なのかというと、
勉強した翌日、その1週間後、2週間後、さらに1カ月後の計4回復習をするのが良いとされています。
もちろん個人差はありますが、期間を詰めすぎたり回数を増やしすぎたりしてもあまり意味はありません。
暗記には最適の時間がある
暗記をするのにベストな時間帯は、夜寝る前です。
脳は、ヒトが眠っている間に情報の整理をして、記憶を定着させます。
朝や昼に覚えたことは、その後寝るまでに外界からのたくさんの刺激に紛れて忘れやすくなるのです。一方、夜に覚えたことは、新鮮なまま脳の仕分け装置に運ばれるので、長期記憶に移行すべき大事な情報として認識されやすいのです。
しかし、医学生にとって問題は、暗記が必要な科目しかないので、朝から晩まで暗記に費やすしかないということです。
どうすれば、暗記のゴールデンタイムを有効活用できるのでしょうか。
その答えは、まとめノートです。
暗記をしていると、覚えやすいことと覚えにくいことがあると思います。そのうちの、覚えにくかったことだけをノートやルーズリーフにまとめ、寝る直前にさらっと見るのです。
なんでもかんでも欲張りすぎずに、覚えにくいところだけを厳選してください。
最後に、睡眠はしっかり取ってください。
医学部は勉強量が多いためについつい睡眠時間を削って机に向かいがちですが、睡眠は大事な記憶の作業です。特に、午後10時から午前2時までに睡眠を取ると、脳が情報を整理し、記憶として定着しやすいと言われています。午後10時に寝るのは早すぎるとしても、12時までには寝るようにしてください。だらだらと夜遅くまで続けても、脳が疲労して暗記効率が悪くなってしまいます。
生理学暗記のコツ
絵で覚える
先ほどの「orz」は覚えられた理由、それには二つ理由があります。
一つは、赤色で強調されていたから、そしてもう一つは、文字の羅列ではなく無意識の内に人が床に手をついている姿をイメージしていたからです。
これを生理学の勉強にも応用しましょう。
「Gタンパク質共役型受容体は、細胞膜表面に存在する受容体であり、細胞外からの神経伝達物質やホルモンを受容して、そのシグナルを内部に伝えるが、その際にGタンパク質という三量体蛋白質を介して、シグナル伝達を行う。」
この文を目で追ってもなんのことやらわかりません。そこで、下のようにイラストにしてみます。
いかがでしょう。一気に覚えやすくなったのではないでしょうか。
ヒトは抽象的な概念はなかなか覚えられないのですが、イメージと一緒に覚えることで記憶に定着させることができるのです。
Gタンパク質共役型受容体のシグナル伝達の仕組みを説明せよ。と言われた時に、先ほどの図を思い出すことができれば解答がすらすら出てくるはずです。しかし、文章をそのまま覚えていたら、一部分でも忘れてしまうと思い出す手がかりがなくなり、答えに柔軟性がなくなってしまうのです。
「尿素回路においては、アンモニアは、ミトコンドリア内のカルバモイルリン酸シンターゼIを触媒として、2ATPの加水分解と共役してHCO3-と反応し、カルバモイルリン酸となる。そして、カルバモイルリン酸はオルニチンと縮合し、シトルリンに変化する。」
については、続きがあり、
「シトルリンは、アルギニノコハク酸シンターゼで触媒され、アスパラギン酸と縮合し、アルギニノコハク酸となる。アルギニノ琥珀酸は、肝細胞質内にてアルギニノ琥珀酸リアーゼで触媒され、アルギニノ琥珀酸のC-N結合が切断されてアルギニンとフマル酸となる。」
ここまでくると何が何だかわかりません。しかし、下のように図を作ると一気に覚えやすくなります。
回路は生理学で一番難しいところなので、これでもまだ難しいのは否めませんが、初めの文章だけの時よりは断然覚えやすくなったのではないでしょうか。
生理学を覚える時は、できるだけイラストが多い教科書を参考にして、自分でその絵が書けるようにしてください。
参考書としては、これが一番絵が多くてオススメです。
ストーリーで覚える
ヒトは、丸暗記よりも理解を伴った記憶の方が定着します。
理系の人は特に頷けると思うのですが、数学や物理の公式は日本史の人名よりも楽に覚えられたのではないでしょうか。その理由は、あなたが公式を丸暗記したのではなく、何故そうなるかを考えながら覚えたからです。
下の図は動脈圧のグラフです。
先ほど絵だと覚えやすいと書きましたが、絵だけを丸暗記するのは難しいです。
「大動脈弁の開放とともに心臓から血液が駆出され、血圧が拡張期血圧(①)から急峻に立ち上がり(②)、そのピークが③になる。
その後、血圧は低下し始めるが、動脈分岐部からの反射波である潮浪波の影響によって潮浪波ピーク④が観測される。
大動脈弁が閉じると切痕⑤が見られる。⑤は収縮期の終わりである。
拡張期に入ると、大動脈圧によって大動脈弁に押し寄せた血流が反射して、血圧が一時的に増加して小さなピーク⑥が観測される。
その後は、血圧が緩やかに低下して次のサイクルに入る」
このように何故そうなるのかを考えれば、図の意味がわかって覚えやすくなります。
グラフを丸暗記するのではなく、そのグラフが描かれる流れを考えながら覚えるようにしてください。
アウトプットを増やす
暗記をする時に危険なのは、目で見ただけで覚えた気になることです。
インプットとアウトプットは全然違います。
教科書を見て「それ知ってる!」「聞いたことある!」というのは、インプットに止まっている状態。頭の中に入ってはいても取り出すことができないのです。このままでは、テストで問われた時に覚えた記憶はあるのに答えられないという悔しい状態になってしまいます。
何も参照しないで説明できた時に初めて「覚えた」と言えるのです。
覚えるにはアウトプットが必要不可欠。
たくさん覚えるコツは、インプットとアウトプットをこまめに繰り返すことです。
例えば、参考書を読んでいて一単元まるまる読んだ後に何が書いてあったか思い出すのでは遅すぎます。新たな知識をインプットするたびに古い知識は頭の隅に追いやられていってどこに仕舞ったのかわからなくなってしまいます。
知識を頭に仕舞ったら、それを取り出すことができるかすぐ確認しましょう。できれば参考書の一ページを読み終わるごとに何が書いてあったか空で暗唱、もしくは書けるようにしてください。隅から隅まで一言一句覚える必要はありません。要点を何も見ないで説明できるようにしてください。
暗唱できるようになるまでは、何度も繰り返し見直してください。見た直前に完璧に暗唱することができなければ、翌日や一週間後に思い出すことなど到底できません。
特に生理学では、文章が多いためについつい覚えた気になりがちです。ストーリーを空で追えるか確認することが重要です。
問題を解きまくる
アウトプットを増やすということにもつながりますが、ある程度覚えたら次にすぐ問題を解くようにしてください。
参考書であれば、できるだけ細かく分野分けして、一つの分野が終わるごとに関連する問題を解いてください。テスト勉強中であれば、対応する過去問をすぐに解いてください。
知識が新鮮なうちに問題を解いて、頭から引き出そうとすればするほど記憶は強固になっていきます。
また、問題を解くことで何が必要な知識かわかってくるので、頻繁に問題を解くことで大切な事項を見極められるようになるのです。
医学部でよくある失敗のパターンとして、テストのためではなく将来良いお医者さんになるためにと、教科書を隅から隅まで覚えようとして、知識の海に溺れてテストを落とす人がいます。はっきりいって教科書には、滅多に使わない知識もたくさんありますし、何が必要かは学生には判断できません。できることは、テストに出る知識を漏らさないようにすることだけです。
たくさん生理学の問題を解いて、生理学でよく問われることは何か見定められるようにしてください。
人に説明する
最後に、覚えたことはどんどん人に説明してください。
人に説明すると、予想外の質問が来ることがあります。すると、自分では完璧に覚えたつもりになっても、実はちゃんと理解しておらず説明出来ない部分を見つけることができます。その穴を埋めることで、より隙のない知識を蓄えることができるのです。
医学部で人間関係が大事だと言われているのは、勉強会を開いてお互いに教えあって知識の確認ができるから、という理由もあります。
暗記は一人で黙々とする作業のように思われがちですが、一番知識の定着が早いのは人に教えることなのです。
まとめ
ここまで暗記の基本、そして生理学の勉強法について書いてきましたので、まとめてみたいと思います。
- 暗記の基本は繰り返すこと
- 睡眠時間はたくさんとること
- 文章ではなく、イラストや図を使ってイメージで覚える
- ストーリーの流れで覚える
- インプットとアウトプットを頻繁にする
- 重要箇所を見極めるために試験問題をたくさん解く
- 覚えたことは人に説明する
この7点が、生理学を勉強するにあたって大切なことです。
二年生で基礎医学に入って最も難しいのは生理学と解剖学と言えます。どこの大学でも皆同じように苦しんでいます。
しかし、この二科目を無事乗り越えることができれば、後の教科は屁でもなくなるでしょう。
医学部は偶数年がつらいといわれています。二年生では基礎医学、四年生ではCBT、六年生では国試があるからです。僕の感覚では一番辛いのは基礎医学でした。一年の時のぬるい教養時代から一変、分厚い教科書が何冊も増えて絶望したのをよく覚えています。
今もし生理学で苦しんでいる学生さんがいるならば、伝えたいのは苦しんだ分だけ後で楽になる、ということです。
基礎医学はその名の通り全ての医学の基礎なので、基礎さえしっかりできていれば後からどんどん知識が繋がって楽になります。三年生の臨床医学、四年生のCBT、六年生の国試…。
早く病気の勉強をしたい気持ちはわかりますが、今頑張るほど臨床の勉強は楽しくなるので、諦めずに頑張ってください!